泥団子

誰も居ないから書く

自分が10歳の時の思い出。
私の家は3人兄弟でした。2歳年上の兄とそして7つ違いの弟。両親は共働きでした。
小学校4年生の夏休み、母は仕事の為に兄と私とで一日交代で弟の面倒を見てました。当時、兄と私は学校の友達と遊ぶのでこの小さい弟が少しうとましく思ってました。

そんな夏休みのある日、私が昼食を取りに家に帰ると弟が一人で部屋で遊んでました。
「あっくんお兄ちゃんは?」弟に聞くと、弟にご飯を食べさせ遊びに行ってしまったらしい「ねぇ一緒に遊ぼ、泥団子作りしよ」と弟は私を誘って来ました。
私は友達と遊ぶ約束もしてたし、今日はお兄ちゃんの番なんだ、お兄ちゃんが面倒見なくて後でお母さんに怒られれば良いんだと思いました。「遊び行くから今日は駄目、明日遊ぼ」私は弟の顔を見ずにそう言い放ってしまいました。


その時は弟の気持ちを考えず、兄に対する怒りと何で私が…
の気持ちだけでした。
その後私は予定通り遊びに行き、夕食の出来る7時近くに家に戻ると家には兄しか居なく、母も弟も居ません。その兄もいつもと違い何か起きたのは子供心でも分かりました「何か有ったのお兄ちゃん?」私は何が起こったか聞きました。
「敦が熱出して、救急車に乗って病院に言った」兄は少し震えながら言ってた。

後で怒られるのが怖いのか、よっぽどの事が起こったのか私はその時は分からなかった。
ただ母が一緒に行った事だけは分かった。
その日は結局母と弟は帰って来なかった。9時半過ぎに父が帰ってきた、
父は「ご飯食べたか?」と私達に聞き食べてないと兄が言うと、今買ってきたのか分からない稲荷寿司を食卓に置き食べなさいと優しく言ってくれた。
だけどお腹は空いてる

筈なのに二人とも中々手がつかなかった。
優しく勧める父のお陰でようやく食べだす二人に父は、弟が少し入院し母一緒に泊まる事を教えてくれた、そして昼間弟の様子がおかしく無かったかを聞いてきた。

覚えてないけど変わりなかったと二人とも言った。兄は少し震えてた気がする。

翌朝にはお婆ちゃんが来ていた。
これからは暫く泊りがけで私達の面倒を見てくれるらしい。
いつそう決まったかは知らない、父は何時も通りに会社に行ったらしい、やはり弟と母の姿は見当たらない。

お婆ちゃんの作ったご飯は意外と美味しかった。私達は次第に元の元気さになり、

母と弟が居ない生活でも元気に夏休みを遊びまわった。

夏休みもお盆を過ぎた日曜日、父が今日はみんなで弟に会いに行くと言って来た。

私は友達と遊ぶ約束あるから行かないと言うと「良いから今日は来なさい」父は少し怒った声で私に言った。
私は渋々従って病院に行った。

病室に着くと、久々に母の姿が有った。母は私達兄弟に元気にしてる?ご飯食べてる? ゴメンネと言った。少し声がかすんでた。兄の顔も少し泣きそうになってる。私は何とも無かった。
それよりも目の前に沢山の管が繋がってる弟に目が行ってた。

弟は小さく細い腕に沢山の管が着いてた。
白いテープが点滴針を止める為に腕に張られてる。母が私達が来たことを弟に告げた「あっくん今日はお兄ちゃん達が来てくれたよ~」だけど弟は寝たまま目を覚まさなかった。
弟のほっぺに触りたかったが触ってはいけない気がした。

夏休みも終わり、学校の生活習慣にも慣れて来た頃。
弟は小さな箱で帰ってきた。
「あっくん今日やっとおうちに帰って来たね~」玄関先で父は小さな箱に向かい話してた。母はお婆ちゃんに何度も頭を下げていた。
初めて経験するお葬式は弟のだった。
沢山の親戚と近所の人がお葬式に来た、みんな悲しそうな顔してる、中には泣いてる人もいる。

私は何故か悲しくなく一度も泣いてなかった。私は親戚の子と遊んでた。みんな私達に向かい「頑張ってね、元気出してね」と言って来た。父が最後の挨拶をしなさいと告別日の時私達に言って来た。
小さな箱の中を除くと、小さな箱に納まる小さな弟が花と玩具に囲まれてる。やはりほっぺを触ろうとしたが手が止まった。
それを見てた母が「触ってあげて」と言い、私の手を弟のほっぺに持って行った。

ほっぺはいつもの弟の感触が無く、冷たかった。その瞬間、私は弟が居なくなった事に気付いた・・。

もう遊ぶ事も出来ないお喋りもしない。
本当に遠くに行ってしまった。「あっくん」それだけ言えて後はずっと泣いた、涙が溢れて来てあごの下も痛くなった。弟は数時間後には本当に小さい小さい箱に入って帰って来た。
その綺麗な布の小さな箱を見てまた私は泣いた。

お葬式から過ぎて、何ヶ月か過ぎた時。
少しずつ弟の事も次第に薄れてきて。泣くことが少なくなった。
ある日、家の庭の軒先を覗くと砂山が有った。砂山を崩してみると、中から砂団子が出てきた。それを見て私は一人で泣いた。
弟はあの病院に担ぎ込まれる日、午後一人でここで私が教えたとおりに泥団子を作ってたんだと思う。
一生懸命小さな手で、水と土を混ぜ乾かし、砂山に埋め。私に出来上がりを見せたかったと思う。一緒に作ってあげれば良かった。
こんな事になるならもっと沢山遊んであげれば良かった。

あっくん泥団子上手に出来てたよ。ほんとにきれいに光って上手だよ。