大きくて無骨な車

私が免許を取って、初めて乗った車は父の使っていた車だった。

緑っぽいメタリックな色でゴツくて大きいMT車。
この車の外見のおかげで若葉マークを付けた女が乗っていてもあまり煽られたりしなかった。


父は、もうその頃は糖尿病で体も視力も弱くなっていたので私だけが使っていた車だった。
高校生の時は毎朝、運転席に父、助手席に私が座っていた。
父を病院まで送り迎えする時に、運転席に私が、助手席に父が座っているのがなんだか変な気持ちだった。

父が死んで1年も経たない内に車を買い替える事になった。
ひとまわり小さな新しい車がうちの車庫に入れられ、緑色の大きなあの車がうちから去って行くのを見送りながら とても寂しくなった。

あの大きくて無骨な車は私にとって父そのものなんだ、と思ったら、たまらなくなった。
泣きそうになりながら見えなくなるまであの車を見送った。