幽体離脱

今から約10年位前の話。
当時、オレには仲が良い女の友達が居たんだ。
今だから言えるけどやっぱかわいかったよ、モテてたしね。
なんか気が合うらしくて良く一緒に遊んだりしたよ、自分の気持ちを隠しながら・・

そんなある日、ソイツが手術する為に遠くに行く事になったんだ。
詳しくは教えてくれなかったが先天性の持病を持ってたらしい。
でも、ソイツはオレには弱いトコロをなぜか見せないようにしてたなあ、なんでだろ?
オレもそういうのを知っていながらは優しい言葉を何1つかけれなかったんだよ・・・
手術するって知った日、オレは励ますところか逆にふざけてソイツに言ったんだよ。

「もし、手術中に幽体離脱でもしたらオレの所にでも来なよ。
首筋 でもなぞってくれればオマエだってわかるからさ。」

そしたらソイツ「絶対行くから」と答えたんだよ、
オレはできるわけないって笑ってたらスゴイ真剣な顔でオレを見つめていたのを覚えてる。

手術する日を教えてもらってソイツは数日後、療養先に行っちゃったよ。
見送りすらできないチキンなオレだった。

そして、ソイツの手術当日の夜、不安でしばらく寝れなかった。
「もし居なくなったら・・・?」とか考える事は縁起悪いことばかり・・・
でも人間ってやっぱり寝ちゃうもんなんだな・・・いつの間にか寝てました。

うつ伏せで寝てて、時間の経過は良くわかんないけど何か棒みたいな物がオレの首筋を触るんだ、触られる度に「ザワザワ」って鳥肌が立つ感じがしてさ。
結構金縛りとかかかるんだけど、その時は押さえつけられる感覚はなかった気がする。
それに金縛り特有の「怖さ」がなかった。
オレはうつ伏せから仰向けに寝返ってみると、黒いワンピースを着たソイツが目の前で宙に浮かんでたんだよ。
不思議に怖くはなかった。「あ、夢かな?」と考える余裕すらあった。

ソイツ、すごい哀しい顔でオレの事を見てた。
その時、今まで押し殺してたモノや耐えてきたモノが一瞬のうちに壊れてしまった気がして、
思わず左腕を伸ばして宙に浮くソイツの首根っこを、自分の肩に引き寄せた。

そして「早く帰って来いよ」って言ってキスをしたんだよ。
自分でも信じられない程の行動力&度胸だった気がする・・
ソイツ笑顔で頷き、そこで目が覚めた。

「なんだ・・・夢か・・・。」なんか不思議な夢だなぁと思った。

その時迄は本当に夢だと思った。

そして、しばらく経ってから友達からソイツの手術は成功してもうすぐ退院してこっちに帰ってくると連絡があった。
「もしかしたら1番にオレに知らせてくれるんじゃ?」と期待してたが「やっぱ、あれは夢だったんだなぁ」とガッカリした覚えがある。

もうしばらくしてソイツが退院してこっちに帰ってきた。
驚いた事に、ソイツは帰ってきて最初に電話したのはオレだった。

「退院おめでとう。」など素っ気ない事ばかり言ってるオレ・・話を盛り上げようとして
「オマエが手術した日にオレさぁ、オマエが出てくる夢見ちゃったよ。」
とふざけて言ってたら、ソイツが

「ちゃんと行ったよ。私覚えてるもん。」と平然に答えた。

それどころかその日、オレの寝てた時の服装や自分の格好などすべて完璧に言い当てた。そして

「ちょっと見て欲しいものがあるんだけど、今すぐ来てくれない?」

大体予想はついていた。急いでソイツの家にバイクで向かった。
オレのバイクの音を聞いてソイツが家から出てきた。
「復活!!」とはしゃぐソイツを見て、いつも通り気持ちを押し殺してる自分がが情けなかった。

「見て欲しいモノがあるんだ・・・」ソイツはおもむろに髪をかき上げて右の首筋から後ろにかけての所をオレに見せた。
そこには青あざって程ではないが4本の横線状のあざが上から順に並んでいた。

「手を・・・合わせてみて」
「わかった・・・。」

オレはソイツを向かい合わせて夢と同じように左手を差し出し左手の指をあざに合わせてみた・・・・
ピッタリだった。指の長さも太さもまったくっていいほど同じだった。

「本当だったんだ・・・あの夢」

絶句してるオレにソイツは
「このあざなんで出来たか先生もわかんないってさ。
でも私ね、手術終わった後に1回危ない時があったんだっって。
でもその時何故かすぐに落ち着いたんだって・・・もしかしたらその時に会ってたかもね?」

「このあざ、しばらく消えて欲しくないよ」

ソイツ表情は夢の時に見たあの哀しい表情と同じだった。
あれから10年経った今、オレは結局ソイツに告白できずに終わった。
そしてソイツも、周りに居たヤツラもそれぞれ疎遠になったり音信不通になっていった。

でも、今でも考える時があるんだよ「あれはなんだったんだろう?」って
そして、その時の気持ちやソイツの笑顔とかが鮮明におもいだすんだ。
オレは今、人生を共に歩んでくれる大切な人が出来ました。
だからもう、思い出さないようにするだろう、だから最後に書き込んでみたかった。