先月、俺の誕生日があった。
毎年誕生日には妻がごちそうを作り、ケーキを焼いてくれる。
特に今年は、幼稚園に入ったばかりの息子からは「パパ」というタイトルの似顔絵、片言を喋れるようになったばかりの娘からは「パパ、チュキ」という言葉とチュウをもらって、とても嬉しかった。
そのささやかなパーティーのあと、寝ようとしてベッドにいくと、サイドテーブルに小さな包みが置いてあった。
あけてみると、俺が前から欲しいと思っていたフランクミュラーが入っていた。
こんな高価なものを・・・家計は大丈夫なのか。
妻に聞くと、にこにこしながら、家計からは一切出していないから安心して。
私のお金で買ったのよ、と言う。
妻は子供ができてからずっと専業主婦だし、家を買うとき妻名義の貯金もほとんど使ってしまったから、妻個人のお金でこんな高いものを買えるはずがない。
そのとき俺の脳裏に、数日前の妻の姿が浮かんだ。
独身の頃から大事にしてきた着物を、何故か突然取り出して眺めていた妻。
いとおしそうに一枚一枚触れながら、思い出話をしていた妻。
着物用のたんすを開けると、予想したとおり、それらが何枚もなくなっていた。
妻が祖母から受け継いだという、大切な着物まで・・・もう着ないから処分しただけよ、あなたはいつも私にプレゼントをくれるけど私はいつもケーキくらいしか作ってあげられなかったから。
あなたのお金を使わずに、私自身のお金でプレゼントしたかったの。
あなたへの感謝は、こんなものじゃ表しきれないくらいだけど・・・。
妻はそう言った。
俺はケーキだけで充分だったのに。
大事な思い出を売ってまで、プレゼントなんてしてくれなくてもよかったのに。
でも、でもありがとう。
とても嬉しいよ。
俺は泣いた。
泣きながら妻を抱きしめた。
あれから毎日、妻のくれた時計をはめて会社に行っている。
妻の愛が詰まったこの時計を見ると、どんどんやる気がわいてくる。
これからも妻と子供のためにがんばっていこうと思う。